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今度は何を始めるの?

壁の絵の中で裁縫をしているS:「今度は何を始めるの?」

部屋の住人Y:「お掃除だよ。」

S:「そう、今日はお休みなのに忙しそうだね。夜明け前からお出かけしてたみたいだし、帰ってきたらお掃除。」

Y:「たまにはね。」

S:「ねえ、ちょっとそこのペンの下に敷かれている布、要らないの?」

Y:「要らないってわけじゃないけど、どこに仕舞おうか考え中だっただけ。どうして?使いたい?」

S:「ソクラテスの洋服の肩の部分が敗れてしまって、当て布を探していたの。」

Y:「じゃ、どぞ。」

S:「ありがとう。」

Y:「感慨深いわ。私のお洋服の布がソクラテスのお洋服の一部になってる。」

S:「そうねえ、あり合わせも、意外と面白いものね。」

Y:「デザインとか、組み合わせとかそんな意外性もあるかもだけど、私が思ったのは、ブリコラージュは思い出が混じるというか。」

S:「思い出?」

Y:「これはこの前美術館へ行くために改造したお洋服に使った余り布。子供の時にとても助けてもらったシャガールの本物の絵がそこにあって、とても感動したの。そんな思い出がダビンチさんのお洋服の一部にもなる。面白いわ。」

S:「そんなこと考えてるのいつも?」

Y:「いつもじゃないけど割と。今日は夜明け前にお家を出て、夜明けと共に伊勢神宮へ参拝してきたの。今着ているこの服は、私の中では参拝用の服なの。」

S:「参拝?」

Y:「去年の春に、お友達と浅草の御朱印巡りをするときに縫ったの。本当は和服で行きたかったけど、草履で7キロ歩くのは難しいから、気持ちだけどもと思って、単(ひとえ)の和服を解いてワンピースをに作り変えたの。それから、参拝するときはこの服を選ぶことが多くなったので、私の中では参拝服と呼んでるの。写真はこの時に撮ったの。」

S:「それにしても、良い時に御朱印巡りに行ったわね。とても桜が綺麗。これはどこ?」

Y:「吉原。ここは吉原観音の前。生きた大門を出られなかった女の人たちの鎮魂の場所。合法的人身売買のあった場所。100年前はそこにあったんだよね。」

S:「へえ。遠い過去の話でもないのね。」

Y:「うん。今はないと言えるのかな。」

S:「きっとあるわよね。大小いくつも。国家主導でだってきっと。」

Y:「戦時中は人は消耗品のようだったのでしょうけど、どこかでは人は家畜のようなのかな。今も。」

S:「そうかも知れないわね。」

Y:「日本もそうなってしまわないか、とても心配だな。」

S:「群集心理が用い易い国民性だからね。案外簡単にあっという間にいつの間にか、なんてことがありうるかもしれないわね。」

Y:「そうね。私がテレビを片付けてしまったのも、そういうのが怖くなっちゃったからかも知れないな。前になるけど、有名な歌手が、ニュースの中で、第二次対戦中に戦場で敵国の兵を殺した経験のある老人に対してインタビューをしていたの。とてもあなたはひどい事をしましたねと。日本を守るために戦った人に対して、こんな言葉を言うのかこの歌手は、と思ったの。そして、この歌手にそう言わせている背景を考えたの。とても怖くなった。だから、テレビをもうみたくなくなったの。」

S:「もう始まってるのね。日本も国家主導が。」

Y:「そうかも知れない。おそらく選挙ではもう変えられないの。高齢者の扱いがとても上手だから。先日、YouTubeで見たのだけど、アメリカの大学の先生が、選挙で変えるのは無理だから、独立国を作ったらいい、と言っていたけど、普通の一般人にはとても難しそうだなと思った。」

S:「このまま変わりゆくのを眺めるしかないのかしらね。周りの人が、地位やお金で懐柔されて、倫理観が働かなくなり、それが当たり前になっていくのを。」

Y:「私、この前ちょっと思ったことがあるんだけど、タブーがタブーでいられるのも、国家が情報や人やお金を制限できたからだよね。でもこれからはそうじゃない。ブロックチェーンやAIがある。イーロンマスクさんだって神のみぞ知ると言っていたし。誰にも止められない。どうなるかも制御できない。そんなものができた。先が見えない不安はあるけど、とても可能性を感じたの。」

S:「儲かりそう?」

Y:「私、ちょっとそういうことにはとても疎いけど、止められない、制御できないってすごいなって。最近みんなよく使うChatGPTというAIだけど、元になっているのはネット上のデータだよね。何となく海のように思えてくるんだよね。ネット上にある記事やSNS投稿だけじゃなくて、誰がどんな検索してるかとか、そんなデータが吸い上げられて、世界中のいろいろなところにあるけど繋がっていて。繋がっているから、迫害や人身売買、臓器売買、戦争とか、そういうことに反対したいと思ったら、もしかしたらできるんじゃないかと思って。一人ではもちろん難しいけど、海が汚れないようにするように、データの海も汚れないようにすること。」

S:「海が綺麗になったらどうなると思うの?」

Y:「例えば、ある地域の人たちに対して、国家が人権侵害をしているとします。そのことについて世界中のたくさんの人が関心を持って、記事を書いたり検索したりすると、認識してくれるAIが増えていくかなって。その先はよくわからないけど、地球の反対側の国のトップニュースの中にも入ってくるかも知れないし、故意に情報を制限されていた人たちにもそういった情報が届くかも知れない。国家では制御できないから。そんな素敵なことが起こらないかなって思ってるの。」

S:「たまに変に黙り込む時があるなと思ったら、そんなことを空想してたの?」

Y:「これはたまに。ブリコラージュについて思った時。今、身近にあるもの使えるもので、何かできないかなって。そんな事を思ったときに、たまに考えてたの。きっかけは布。私の参拝服。」

S:「参拝服?なぜ?」

Y:「あの参拝服を縫い終わった後に残った余りの記事を捨てずに取っておいたの。裁縫道具の中に入れておいたの。ちょうど3ヶ月くらい前かな。その時はまだ私は児童養護施設でも働いていたから、子供たちのご飯を作ったり、洗濯をしたりしてた。ズボンに幾つも穴があってもそれを気に入って履いている子もいたから、直せるだけ直そうと思って当て布を探してたんだけど、ちょうど車の中に自分の裁縫道具の中に余りの布があるのを思い出して、それを縫い付けることにしたの。みんな喜んでくれた。」

S:「それで?」

Y:「ブリコラージュは思い出が混じるなって思った。身近なものって念が強いから。私が参拝した時のこととか、祈ったことが、この子にもご利益があると良いなとか。それからすぐにお別れすることになったけど。」

S:「引っ越したからね。」

Y:「うん。最後の日、直したズボンの一つを履いて喜んでる子と散歩をしたの。その子がこんな事を言ったの。

”一人で行くの?一人でも大丈夫。どこにも警察があるから。困ったことがあったらちゃんと警察に相談するんだよ。僕は大きくなったら警察官になるから、ちゃんと守ってあげるからね。”

参拝服を着たり見たりするたびに、思い出すの。それで、この前小さな盗難があった時も、いつもなら何もせず早く忘れようとしていたところを、警察へ行ってみるということができた。そして、その警察署の中で、警察官になってるかもしれない20年後のあの子を想像したんだ。まだ3ヶ月も経っていないのに、遠い日々の方に思えてくるな。」

S:「ブリコラージュは、あり合わせで今をなんとかするだけじゃなくて、未来も変えるのね。」

Y:「そう。だから、誰もが面白いテクノロジーを使ってみることができるようになったのだから、それをみんなで使い倒して、いつか、誰かが、タブーを打ち破ってくれる、破壊してくるっていうと思って、強く想像しています。」

S:「良い未来になるといいね。」

Y:「はい。」

S:「ただ、Yさん、あなたの将来の目標、海外移住だったわね。あの子に助けに来てもらえないわね。」

Y:「あ、大変。あの子に手紙書かなきゃ。インターポールになってって。だから英語をたくさん勉強してねって。」

S:「だわね。」

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